続き
明日の仕入れに備え、アペロと夕食を早めに切り上げ僕たちは店を出る。2人で凍えながらレピュブリック広場まで雪の降る道を歩く。オスマン建築のマンサード屋根が白く染まる。白い外壁が余計に白く見えた。
あまりの寒さに道ゆくパリ市民は皆笑っている。横殴りの降雪が寒すぎて笑えてくるのだ。
9割の人々は傘をさしていない。ウールのコートに雪を好きに積もらせながらメトロの入口に足早に吸い込まれていく。
僕たちは最後に体を温める為、帰路のカフェ・シャルロットでポカポカのショコラ・ショーを飲む。ピシェにたっぷりのショコラがサーブされるだけで幸せだ。凍え切った体に濃厚な甘さがじんわりと染み渡る。
古物を見つける旅は、こんな束の間の時間をも内包している。それは店に並ぶ物には直接見えないかもしれない。けれど、コロナ禍を経験した僕たちは,自分の店の輪郭を描く時、旅が不可欠な要素だと強く実感した。それはある種の人生観のような事かもしれない。
'付加価値'と言うほど単純には切り離せない誰かにとっての遠回りが、物語を深く美しいものにしてくれるはずだから。
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