top of page

  あれは今から30年以上前の話 (今回もアンティークには関係ない話・・・)


 わたしは一族の一番末っ子でして、当然' いとこ' の中でも一番年下の存在でした。一番上がお姉ちゃん姉妹、次に男二人兄弟、そして兄、というわたし含め6人という構成。一番上のお姉ちゃん姉妹とはそれなりに年も離れていましたが、会うたびに可愛がってもらいました。まさに少年の憧れでありました。


 春休み、夏休み、冬休み、ゴールデンウィークと、連休さえあれば一族はまず祖母の家に大集合、山登りやら海遊び、市民プールへと繰り出す仲の良さで、いとこに会うのが楽しみで仕方ないという幼少期でありました。特に男四人は寝るのも遊ぶのも大騒ぎ、企てたイタズラ数知れず。祖母の家から帰るときは寂しくて寂しくて、それだけで夏休みが終わった気になったものでした。


 そんないとこ6人でしたが、やはり時も経てば変化ももちろん、なにやら一番上のお姉ちゃんに彼氏(婚約者)ができたという聞き捨てならない情報が飛び込んできました。僕にとって憧れのようなお姉ちゃんいとこに彼氏だと?当然男四人全員が一体どんなやつだ?という心持ちになりつつ、好奇心いっぱいの夏休みに突入したのでした。


 一番上のお姉ちゃんいとこの家は祖母の家の隣にありまして、夏休みに祖母の家に集合すれば必然的に会えるという構図。この夏も一族集合。男4人ここでさらにトップニュースなる情報を耳にすることになります。お姉ちゃんが婚約者を連れてくるらしいと!


 こちとら一族大集合、完全我が牙城で迎え撃つ算段となりました。それにしてもよくこれたもんだ。いい度胸じゃねーか(私、中学生)という4人。


 さて午後から始まる恒例の宴会、大人たちが準備に奔走している最中、そわそわするしかない男四人。祖母の家の掃き出し窓から首を出し、いまかいまかと落ち着かない。


そわそわやきもきすること数十分。きたぞ!と上のいとこの叫びとも怒号ともつかない発狂!そして4人はまず隠れるという無様で情けない始末。ついに婚約者が登場と相成りました。


 (ところで、その時勢、ワイドショーでは羽賀健二が梅宮アンナと交際、連日報道され羽賀健二は誠意、誠意を連呼、誠意大将軍などというあだ名で呼ばれる始末)


 われわれの先制攻撃はまず上の男いとこの大一声(誠意見せろ!)から始まったのでした。今から考えればなんとも悪のりもいいとこだと思うのですが、相手は大人、しかも体格の良いスポーツ万能のイケメンだったのですから仕方ない。勝ち目なんてハナからないのであります。僕たちは掃き出し窓から取っ替え引っ替え顔を出し(誠意見せろ!を連呼するのでありました。大人たちはどうぞどうぞ〜とすでに嬉しさマックスウェルカムドリンクなのでありました。


 お姉ちゃんもなんだか照れくさそうだけど嬉しそうにしているし、初めての事態に免疫ゼロの我々は大人の話を複雑な胸中で盗み聞く術しかないのでありました。


さて、そのうち大人の一人がそうだ、これからカラオケでもいくかと舞台は街のカラオケボックスに移ったのであります。彼にとってまさに鬼の一声。今思えばいきなり一族に飛び込みカラオケまで行くハメになった彼には一族を代表してここに陳謝したい...。ごめんなさい


当然、婚約者の彼はそこで歌を披露するというまさに苦行、いやがらせ、必要のない登竜門の門前に立つハメになるのであります。


僕はその時のことをよく覚えている。彼は少し緊張しながらも上機嫌にぱぱっとリストを捲るとすぐに選曲を終えイントロスタート。


歌った曲は『夏の日の1993』 Class でした。まさに一族に決意表明した瞬間。あの一生懸命歌う彼の美しい横顔、かっこよさ、幼少期の僕の心にまさに致命傷のように深く深く突き刺さったのであります。


彼はただならぬ誠意を無力な僕たち4人に見せたのです。

さすがに、完敗。お姉ちゃん幸せになってねって思った。


いとこたちよ、みんな元気か?






















 
 
 

最新記事

すべて表示
019 遅すぎる備忘録 2 ステーキの会

主戦場の前に恒例のステーキの会。かれこれ10年以上通うリブロースのステーキ専門店である。メニューは薄切りのステーキ・フリットのみ。オーダーは焼き加減の希望だけ伝える。前菜のサラダがついてる。まずはサラダがサーヴされそれを終えると自家製ベアルネーズソースに絡められたステーキが...

 
 
 
018 遅すぎる備忘録

買付けから戻って慌ただしく過ごしていました。やっと手元の手帳を開いて記憶を辿りながらキーボードをカチカチと叩いている次第です。  本当ならフランス滞在中に恥じらいもなく生の感情ありったけ乗っけのスピーディな更新をしたかったのだけれど。移動と梱包に追われてしまい毎日バタンキュ...

 
 
 
017 旅の始まり

満開のアーモンドの花が揺れる南仏の田舎道を駆け抜けている。ささやかに芽吹き始めたコートドゥローヌの葡萄の新芽が春を告げてくれている。ヴォクリューズの低山の稜線も緑に染まり、どこまでも長閑な世界だ。 行きの機内で60年代のボブ・ディランを描いた映画'名もなき者'を見たせいでず...

 
 
 

コメント


bottom of page