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更新日:2024年10月28日

とある買付小話


帰国日、荷物が重いのでホテルでタクシーを呼んでもらい空港に向かった。


ロビーで待つこと2分、すっ飛ばして到着したタクシーのドライバーはよく喋る40代後半くらいのチュニジア人だった。


ドライバー 以下D

'ムッシューターミナルは?


IIMURA 以下I

'2Eまでお願いします。


D

'50分で到着だ。アハハッ


英語のイントネーションは歪で語尾に必ず一笑する不思議で陽気なドライバーだった。


最初の信号で停止するとその雰囲気と裏腹に熱心に車内音楽を選び出した。彼が選んだのは静かなピアノソナタだった。


D:この音楽を知ってるか?

I:モーツァルト?


D:あーイエス、美しい音楽だ。風景に合うだろう?アハハッ

君はどこから来た?パリは好きか?


I:日本から来ました。パリは好きです


D:日本、いいね。ハハッ、クリーンシティ!そして料理は芸術的だ。そして全員マスクをしてる。プロテクションさ。アハハッ。パリは建築、料理、パリジェンヌ、芸術だろ?ハハッ


I:あなたはパリに住んでるのですか?


D:アウトオブパリだ。パリは高い。クレイジーだ。この渋滞を見てみろ。クラクションのコンサートさ。リスペクトがない。誰もが急いでビジーなのさ。ハハ


俺はチュニジアンだ。70年代に両親とフランスに来た。チュニジアはかつてフランスのコロニーだった。人口の半分はフランス語を喋る。チュニジアはバッドエコノミーだから誰もが外に出ていくのさ。


I:ご両親はパリへ?


D:リヨンさ。そこで一生懸命働いた。今は仕事を終えてチュニジアに帰ってゆっくりやってるよ。


I:あなたもたまにチュニジアへ帰るのですか?そしてフランスにはチュニジアの人々はたくさん来てるのですか?


D:あぁたまに帰る。フランスにはチュニジア人も多い。今も移民者は後を立たない。だが渡るのは危険が伴う。イリーガルな方法だ。まず最初はイタリアのランペドゥーザ島やパンテレッリーアを目標にする。一番近いヨーロッパだ。不完全な船に詰め込まれて出発。海を越えるのさ。無茶な話さ。デスボヤージュさ。沢山死ぬんだ。


運良く渡れても運び屋に金を払わなきゃならない。エクスペンシィヴだ。結局イリーガルな仕事が蔓延する。最悪さ。


I:チュニジアの国の治安はどうですか?


D:チュニジアは平和さ。田舎なのさ。オレンジがうまいよ。だか近くのリビアは危険だ。カダフィが問題を作ったのさ。


だが今は世界をコヴィットがダメにした。

色々ダメにしたのさ。色々変わっちまった。やっと終わったけどな。


I:世界中が変わりましたね。


D:フランスはコンフィヌモンがビジネスと人を殺したのさ。長い長いコンフィヌモンさ。色んな意味でな。ハハ


I :例えばどんなことですか?


D :代わりにボスはeコマースになっちまった。世界の主要なショッピングストリートはAmazonに成り代わった。誰もが家から出ない方法を良しとしたのさ。


コヴィットは文化を殺したのさ。トラディショナルはどこにいっちまったのか。ハハ


サンパウロだろうがニューヨークだろうがパリだろうが何も変わりが無いのさ。

ウーバーイーツがレストランを殺した様にな。人々は本も読まなくなった。全部この小さなデバイスに支配されちまったのさ。なんてこった。


I :世界は小さくなった?


D:イグザクトリィ。未来が心配だ。

君の職業はなんだ?


I:アンティークのバイヤーで東京で小さな店をしてます。


D:なんてこった、わざわざフランスに来るのは素晴らしい事だ。美しいものは文化を生かすのさ。


I:そう言ってもらえて嬉しいです。ありがとう。


D:グッドビジネスを願うよ。


I:あなたにも。


D:きっかり50分だ。


I:話せてよかったです。


D:こちらこそだ、ボンボヤージュ


僕達は握手をして別れた。


もう2度と会うことはないだろう。

 
 
 

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