暦では秋だが、どこか夏の面影が東京の空を染めていた。グレナデンシロップが溶解していくような分水嶺も、やがて季節がすっかりと深い夜を運んでくるだろう。そんな刹那の色彩に見惚れた人々は、聖橋でふと足を留める。僕もまたその中の1人だ。
味気ないBluetoothイヤフォンの音質でも、bマイナーワルツをゆっくりと聴きたくなる。ビル・エヴァンスが妻エレインに捧げた190秒ほどの小品だ。しかし、発表された1981年、奇しくもエヴァンスの追悼の音源としてだった。
欄干に集う名も知らない僕たちは同じ景色をしばし眺め、やがて何処かに消えていく。
190秒、名も知らぬ人々と共有した。夏よ、さようなら。
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