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稚魚が海原に放たれていくように、私たちはこの世界に無防備に生き始めた。幾多の海流の行方を何も知らなかった。


閃空の景色が一瞬のように、光と闇が分け隔てるものほど不確かなものは無いはずなのに、私たちはその強い差異に答えがあると錯覚し過ちを繰り返し続けてきた。


時間をかけて根を張る木々がそこにじっとしている強さを忘れて,あなたは乾いた場所に水をやる事を忘れてしまった。その確かな生命の息吹はただ花を咲かせる意味さえ疑問に思わず、他の命を受け入れている事に、私たちは気づきもしなくなった。


海原に放たれた時、世界は恐ろしくも、美しくもなかった。私もあなたも国境や言語といった秩序を知らなかった。放たれた事に必死に頼りない手足でもがき、それを見守る母や父がいた。しかし、そのもがきは人生の中で一番純粋な強さと美しさを纏っていた。


あなたもわたしも同じという事を私も貴方も次第に忘れていった。海を眺めにいけば、思い出せるだろうか。砂浜を濡らすさざなみはあなたでありわたしだ、と。


私は貝に耳をあて、あなたの声を聞く。足元に漂着した石に触れてわたしを確かめている。

それが、不完全な世界を鎮静する頼りない行為と知りながら。


わたしはその石をできるだけ遠くに投げ返した。そして、しばらく海を眺めていた。


ふと手のひらを見つめると無数の砂が静かに光り輝いていた。

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